大規模修繕工事とは?

大規模修繕工事は、外壁・防水・金物・共用部などの劣化を計画的に是正し、建物の性能を回復・維持・向上させるための一連の改修工事を指します。
マンション、オフィス、商業施設、教育・医療施設など幅広い用途で、概ね10~15年周期を目安に検討されます。
本稿では、調査・診断から設計、見積、施工、検査、引渡し、アフターまでの実務を、デジタル活用イメージも交えて整理しご説明します。
1. 大規模修繕工事の目的と対象
大規模修繕の主な狙いは、(1) 劣化の是正(漏水・浮き・剥離・腐食など)、(2) 耐久性の延命(躯体・防水の寿命延長)、(3) 安全性・快適性の向上(落下物リスク低減、断熱・防滑など)、(4) 資産価値の維持に要約できます。対象は外壁(タイル・塗装)、シーリング、屋上・バルコニー・廊下の防水、手摺・笠木・金物、鉄部塗装、共用部仕上げ、設備配管まわりの補修など多岐にわたります。
近年は、バリアフリー化や省エネ改修、意匠更新を同時に実施する事例も増えています。
2. 代表的な劣化症状と診断の考え方
修繕を成功させるには、目に見える「症状」だけでなく、なぜそうなったのかという「原因」を突き止めることが大切です。
建物を一周して、異常が出やすい場所や気になる部位を洗い出し、足場を掛ける前であれば、ドローン撮影や赤外線カメラでおおまかな当たりを付けます。そして、ひび割れ、タイルの浮き、シーリングの切れなどを、打診や目視、簡易測定で詳しく確認します。
建物を一周して、異常が出やすい場所や気になる部位を洗い出し、足場を掛ける前であれば、ドローン撮影や赤外線カメラでおおまかな当たりを付けます。そして、ひび割れ、タイルの浮き、シーリングの切れなどを、打診や目視、簡易測定で詳しく確認します。
- 外壁タイル:浮き、ひび割れ、エフロ、剥離が見られます。打診棒・赤外線サーモでスクリーニングし、近接打診と組み合わせて範囲を確定します。過去の補修履歴も参照します。
- 塗装仕上げ:チョーキング、ひび割れ、付着力低下が典型です。付着試験・素地含水率を確認し、素地調整の仕様を選定します。
- 防水:亀裂・ふくれ・端末破断、排水不良が主な症状です。水張り・散水・目視で判断し、補修か更新かを使用条件と耐用で決めます。
- 金物・鉄部:腐食、溶接部割れ、アンカー不具合などが対象です。肉厚や腐食度を確認し、下地処理を徹底します。
近年は、ドローン撮影や赤外線サーモグラフィの併用により、足場設置前の全体像把握と重点エリア抽出のスピードと精度を高めやすくなります。
重要なのは、近接打診の代替ではなく補完として位置付けることです。
調査写真、位置情報、判定区分、是正方針を案件単位で一元管理すると、後工程の数量拾いや見積、是正管理に情報が滞りなく流れます。
調査写真、位置情報、判定区分、是正方針を案件単位で一元管理すると、後工程の数量拾いや見積、是正管理に情報が滞りなく流れます。
3. 全体フロー(企画~アフター)
規模修繕は、入居者やテナント、来訪者が日常の生活や業務を続けながら進める工事です。そのため、作業の安全確保だけでなく、騒音・粉じん・動線・景観・プライバシーといった生活影響への配慮を同時にコントロールする必要があります。さらに、品質・工程・コストと生活影響のバランスを取りながら、事故やトラブルを未然に防ぐ運営が求められます。
もう一つの要は合意形成です。施主・監理者・居住者・近隣・協力会社など多様な関係者と、事前説明や色決め、仕様承認、工程変更といった節目で合意を積み上げ、記録を残していきます。情報の見える化と「合意 → 記録 → 実行 → 確認」のサイクルを回すことで、現場の安定運営につながります。そのうえで、企画からアフターまでの全体像を最初に共有しておくと、各段階での判断がぶれにくくなります。一般的な流れは次のとおりです。
もう一つの要は合意形成です。施主・監理者・居住者・近隣・協力会社など多様な関係者と、事前説明や色決め、仕様承認、工程変更といった節目で合意を積み上げ、記録を残していきます。情報の見える化と「合意 → 記録 → 実行 → 確認」のサイクルを回すことで、現場の安定運営につながります。そのうえで、企画からアフターまでの全体像を最初に共有しておくと、各段階での判断がぶれにくくなります。一般的な流れは次のとおりです。
- 事前検討・長期修繕計画の見直し
- 劣化診断(目視・打診・赤外線・ドローン等)
- 修繕方針・仕様案の策定(設計監理方式 or 責任施工方式)
- 概算見積/予算化・発注方式決定
- 入札・契約
- 着工準備(仮設計画・安全衛生計画・近隣/住民周知)
- 施工(足場 → 下地補修 → 防水・塗装 → 仕上げ)
- 検査(社内 → 監理者 → 施主)・引渡し
- アフター点検・記録保全
工程表、安全書類、写真台帳、検査記録、帳票出力などを標準化して連携させると、担当者が変わっても運用の再現性を確保しやすくなります。
4. 工事会社が担う主な業務
改修の難しさは、図面どおりに進みにくい「既存の不確実性」にあります。開口して初めて分かる下地の劣化や、過去補修の影響、雨仕舞いの連続性、設備配管の実配線など、想定外が発生しやすいため、工事会社は仮説と検証を繰り返しながら仕様を最適化していきます。試験施工やサンプル承認を早めに入れ、代替工法・代替材料を事前に用意しておくことで、判断のスピードと品質を両立しやすくなります。
もう一つの要点は「取り合い(インターフェース)の管理」です。防水と金物、タイルとシーリング、塗装と下地補修など、工種の境目で責任範囲が曖昧になると、仕上がりや耐久性に影響が出やすくなります。誰がどこまでを担うかを明確にし、チェックリストで確認することで、再作業やクレームを防ぎやすくなります。
また、変更管理を仕組み化することが重要です。現場での仕様変更や数量差は、工程・原価・出来高に直結します。写真・位置情報・試験記録と数量の紐づけを行い、意思決定の経緯を可視化しておくと、検査・請求・引渡しまで一貫した説明ができます。こうした「根拠のある運営」によって、手戻りとリスクを着実に下げていきます。主な業務の流れは以下の通りです。
また、変更管理を仕組み化することが重要です。現場での仕様変更や数量差は、工程・原価・出来高に直結します。写真・位置情報・試験記録と数量の紐づけを行い、意思決定の経緯を可視化しておくと、検査・請求・引渡しまで一貫した説明ができます。こうした「根拠のある運営」によって、手戻りとリスクを着実に下げていきます。主な業務の流れは以下の通りです。
- 仮設・足場計画:動線分離、避難ルート、養生、昇降設備、飛散・落下防止、風荷重対策を適切に計画します。
- 安全衛生:リスクアセスメント、KY、特定作業管理(高所・有機溶剤・特化則該当作業等)を徹底します。
- 周知・コミュニケーション:工事説明、掲示・回覧、問い合わせ対応SLA、夜間・休日作業の事前調整を行います。
- 品質・出来高・検査:下地処理の見える化、試験結果の記録、是正管理、出来高根拠の整備を進めます。
- 調達・外注管理:材料ロット、メーカー施工基準の遵守、技能者資格の確認を行います。
- 記録・引渡し:写真・試験成績書・材料証明・竣工図を整理し、アフター項目を明確化します。
5. 調査・設計段階のポイント(方式選定)
発注方式は工程・コスト・品質に大きく影響します。代表的な二方式の特徴は以下のとおりです。あわせて、方式選定ではQCDSとリスク配分、設計の固まり具合、不確実性(開口後の想定外など)、合意形成の難易度、工期の制約、価格透明性の重視度を事前に整理しておくと、後戻りを抑えやすくなります。必要に応じて試験施工やサンプル承認を早めに実施し、要求性能を明確化して同等品審査の基準を整えておくと、設計監理・責任施工いずれの方式でも判断の一貫性を保てます。
- 設計監理方式:第三者設計者が仕様・数量・図書を整備し、工事会社は入札で選定します。競争性と仕様の担保が強みです。
- 責任施工方式:工事会社が調査・提案・施工まで一貫して担います。スピードと一体最適が強みです。試験施工で仕様妥当性を担保しやすくなります。
いずれの方式でも、モックアップやサンプル承認を早期に入れると後戻りを抑えられます。設計意図と現場納まりの齟齬を小さくするには、仕様・承認記録の整備が有効です。
6. 主要工種と工法の概観
工法・材料は使用環境(屋外/屋内、歩行の有無、日射・風雨、塩害・凍害)や既存仕上げとの相性を踏まえて選定します。取り合い部は防水・金物・シーリングの連携を意識し、試験施工で付着・膜厚・耐候性を確認します。施工条件(温湿度・露点)や養生時間も工程に織り込み、メンテナンス性と安全性まで配慮します。
- 外壁タイル補修:エポキシ樹脂注入、貼り替え、アンカーピンニング部分固定。
- 下地補修(モルタル等):脆弱部除去 → 樹脂モルタル成形 → 段差調整。
- シーリング更新:既存撤去 → プライマー → 充填 → 仕上げ。目地種別と可動量に応じて材料を選定します。
- 塗装:素地調整 → 下塗り → 中上塗り。付着・素地含水率・露点を管理します。
- 防水:ウレタン塗膜、シート、アスファルト等を、歩行可否、勾配、立上り納まりに応じて選定します。
- 金物・鉄部:ケレン等級、さび止め、膜厚管理、端部止水、取合いのシールを適切に行います。
- 共用部仕上げ:長尺シート、ノンスリップ、手摺更新、サイン改修などを状況に合わせて実施します。
7. 概算費用感と見積の考え方
地域の実勢単価、資材市況、仕様、足場条件、工程制約(夜間・休日・騒音規制)、合意形成に要する工程などにより、総額は大きく変動します。過大な断定は避け、費用を構成する考え方と内訳の見える化を優先します。
区分 | 構成比の目安 |
---|---|
足場・仮設 | 15~30% |
外壁(下地+仕上) | 25~40% |
防水・床仕上 | 15~25% |
金物・鉄部・雑工事 | 5~15% |
安全・環境・共通仮設 | 5~10% |
諸経費(現場経費・一般管理) | 10~18% |
予備費 | 2~5% |
※用途・仕様・現地条件により幅があります。具体金額は「数量 × 単価 + 共通仮設 + 諸経費」で案件ごとに精査します。
単価の透明性を高めるには、単位の取り違い防止(シーリングはm、塗装はm²、手摺は本など)、下地調整の手当(「一式」ではなく想定歩掛・面積・数量を明記)、予備費の明示、工程制約コストの分離が有効です。
項目 | 主な単位 | 注意点 |
---|---|---|
外壁塗装 | m² | 素地調整の範囲・等級を明記します |
タイル補修 | 箇所・m² | 浮き注入/貼替の比率を想定します |
シーリング | m | 目地種別・サイズ・打替/打増を区別します |
屋上防水 | m² | 機器基礎・立上り・ドレン納まりを確認します |
バルコニー床 | m² | 端部・見切り材・排水まわりの納まりを明確にします |
手摺・笠木 | 本・m | 取合いシール・金物納まりを整理します |
足場 | m²(架面) | 養生・開口部・特殊納まりの有無を反映します |
8. 法令・安全・環境対応
生活空間に近接する改修では、法令順守・安全・環境配慮の水準が品質と同等に重要になります。高所作業・足場・有機溶剤・粉じん等の該当基準の遵守、必要な計画・教育・点検の実施、関係官庁への必要な届出、アスベスト等の事前調査と適切な除去・処理、建設リサイクル・産廃の適正処理、近隣・住民への配慮(騒音・振動・粉じん・落下物対策、動線確保、掲示・個別告知)が要点です。
9. 品質管理と出来高・検査
品質は「見える化」と「再現性」で担保します。受入・施工前の材料証明や試験施工、施工中の下地処理写真、膜厚・付着・含水率、温湿度・露点の記録、是正の記録化(指摘 → 対応 → 確認の履歴)、段階検査のチェックリスト化、出来高の数量根拠(数量 × 写真 × 位置情報の紐づけ)などが基本です。
10. デジタル活用
改修は情報の連続性が成果に直結します。調査 → 見積 → 施工 → 検査 → 引渡しの各フェーズで記録を分断せず、同じ情報を関係者間でタイムリーに共有できれば、数量差や仕様齟齬、工程遅延を抑えやすくなります。
- 調査・診断の一元化:赤外線・ドローン撮影や打診結果を位置と写真で整理します。
- 数量拾いと見積根拠:部位・仕上・数量・単価を紐づけ、根拠付き見積に展開します。
- 工程・出来高・請求の連動:進捗と出来高の整合をダッシュボードで可視化します。
- 検査・是正管理:指摘 → 対応 → 確認のステータス管理と未了タスクの見える化を行います。
- 帳票出力・標準化:調査報告書、安全書類、各種検査記録、竣工書類をひな形化します。
- 関係者共有:発注者・監理者・協力会社と同じ情報を権限設定のもとで共有します。
効率の数値向上などの効果は案件・運用によって異なります。システム導入検討時は、現場ヒアリングに基づく試行運用で適合性を確認することをおすすめします。
11. 成功させるための実務のコツ
表面的な段取りだけでは現場は滑らかに回りません。合意形成の節目や天候リスク、居住者動線、数量根拠の整合など、現場で効くポイントを押さえておくと手戻りを減らせます。
- モックアップの早期実施:仕上がり・納まりの認識を合わせ、後半の齟齬を減らします。
- 節目ごとの承認:仕様・色決め・工程の節目で承認と議事録を残します。
- 天候リスクの平準化:雨天影響の大きい工種は並行作業や予備日を組み、風対策も加味します。
- 居住者動線の“日常化”:当たり前の導線を崩さない仮設・掲示・事前告知を徹底します。
- 下地処理の可視化:見た目より下地健全化を写真・試験で示します。
- 数量と根拠の一致:出来高・請求の根拠は数量 × 写真 × 位置情報で整合させます。
12. よくある質問(簡潔版)
- Q. 工事の適期はいつですか?
- A. 仕様と部位によりますが、極端な高温・低温・降雨は避けるのが基本です。工程には天候バッファを織り込みます。
- Q. ドローンや赤外線は必須ですか?
- A. 足場前の全体把握や高所のスクリーニングに有効です。近接打診の代替ではなく補完として活用します。
- Q. 概算費用はどのくらいですか?
- A. 建物規模・仕様・足場条件・工程制約で大きく変動します。構成比の目安と「数量×単価+共通仮設+諸経費」の考え方で透明性を確保します。
13. まとめ
大規模修繕は、生活者の安全と快適を守りつつ建物寿命を延ばす長期運用の要です。成功の鍵は、(1) 診断の質、(2) 方式・仕様の妥当性、(3) 情報のつながり、(4) 合意形成の節目管理にあります。改修工事総合支援システム「TRSⅡ」は、調査から見積、工程、検査、是正、帳票、引渡しまでの標準作業を一本の線で結び、現場運用の再現性を高めることを狙いとしています。
CATEGOIRES

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