TRSⅡ | 改修工事総合支援システム
TRSⅡコラム

ビルやマンションの修繕工事における亀裂や破壊箇所の特定方法

ビルやマンションの修繕工事における亀裂や破壊箇所の特定方法

改修工事の出発点は、症状を並べることではなく、原因に遡って道筋をつくることです。現場で目にする「ひび割れ」「欠損」「浮き」「タイル剥がれ」「爆裂」は入口に過ぎません。原因仮説を立て、一次・二次調査で確からしさを高め、劣化図に落とし込み、数量として説明できる形に整える-この一貫性が品質と採算、そして合意形成の速さを左右します。以下では、工事会社の実務視点で、設計・調査・図化・拾い・レビュー・継承・システム活用までを整理してご説明します。


はじめに

改修工事は、症状を並べて終わりではありません。まず「なぜこうなったのか」を考え、はじめに建物全体を広く点検し、必要な場所だけを詳しく調べます。結果は見やすい図(劣化図)にまとめ、どれくらい直すのかを数字で示し、関係者で内容を確認してから工事に入ります。デジタル化は魔法ではなく、写真・図面・計測データを一つに整理して、ベテランの判断をチーム全体で共有しやすくするための道具です。本文では、現場で役立つ進め方を大げさにせず、分かりやすく紹介します。


正確な特定が利益と安全を左右する理由

調査の精度は見積りの説得力、安全計画の実効性、工期の確度に直結します。写真・劣化図・試験値で裏づけた説明により、協議は感覚論から離れ、数量と工程に集中します。誤認や根拠不足は早期再劣化や追加費用、住民説明の難航につながるため、最初の一歩で差がつきます。


  • 安全面:タイル片落ち・爆裂拡大などの事故を未然に抑制
  • コスト面:過少拾いによる赤字、過大拾いによる不信を回避
  • 合意形成:根拠資料により意思決定のリードタイムを短縮

症状を原因に結び付ける視点

同じ“ひび”でも背景はさまざまです。幅・長さ・深さ・位置・進行性を一体で評価し、周辺の納まり(開口角・目地・打継ぎ・コーナー)や随伴症状(錆汁・エフロ・含水跡)と合わせて、短文の原因メモを残すと後工程がぶれません。


症状と背景の対応(実務の着眼)
代表症状主な背景要因観察の要点典型的な落とし穴
ヘアークラック乾燥・温度応力面全体に散在、幅0.3mm未満中心一律に注入対象と誤認
通しクラック構造応力・不同沈下開口角・柱際・貫通性を確認片面だけ補修して再発
浮き・剥離付着低下・含水変動目地沿いの広がり・季節差サーモ結果を確定判定と誤用
爆裂鉄筋腐食(中性化・塩害)かぶり・錆汁・打音の変化表層モルタルだけで応急対応
エフロ・漏水跡水の移動・欠損流路と侵入点の推定表面清掃のみで原因放置

調査設計-目的・精度・安全・コミュニケーション

良い劣化図は現地に出る前に八割が決まります。まず調査の目的(安全性評価/長期修繕計画/直近工事の積算)を定め、必要な精度(全面か代表面か、一次と二次の境目)、仮設(足場・ゴンドラ・ロープアクセス・ドローン)の選定、住民周知(作業時間帯・動線・プライバシー配慮)、安全計画(落下・墜落・粉じん・有機溶剤・熱中症)を一体で設計します。成果物の体裁-劣化図のレイヤー、写真台帳の必須項目、数量表の粒度-を先に決めることで、現場の迷いと手戻りを抑えられます。


一次→二次の運び方

検査は「一次で広く、二次で深く」。低侵襲のスクリーニングで疑い領域を面で捉え、必要箇所に資源を集中するのが合理的です。赤外線は確定判定の道具ではなく、抽出のための道具として位置づけます。


主要手法の比較(一次・二次の役割分担)
手法得意領域強み限界・留意点
目視+高倍率撮影ひび・欠損・錆汁機動性・費用対効果が高い撮影基準で客観性を担保
打診タイル・モルタルの浮き判定が速く確度が高い人依存、走査順の標準化が必須
赤外線サーモ広域スクリーニング面で疑いを抽出できる天候・日射・時間帯の管理が肝
鉄筋探査/半セル腐食傾向・配筋状況原因推定の核心データ試験点の代表性を吟味
付着強度・引張仕上げ材の付着設計・工法選定の根拠局所試験。母集団化に工夫

二次調査の要点-深く、絞って、根拠を残す

一次で抽出した要注意部位に対し、コンクリートはフェノールフタレインで中性化深さを確認し、電磁レーダ等で鉄筋探査とかぶりを把握、腐食傾向は半セル電位で推定します。必要に応じて反発硬度やコア採取で強度や内部状況を点検します。仕上げ材は付着強度試験やタイル引張で設計の根拠を整えます。得られた数値は必ず図面上の位置情報と紐づけ、補修方針と数量の説得力に変換します。


劣化図づくり-迷子にならない図面の条件

劣化図の評価基準は「誰が拾っても同じ数量」です。ひびは幅カテゴリで描き分け、浮き・剥離・欠損・爆裂・錆汁・エフロは記号と色の統一を徹底。レイヤーは症状/部位/工法の三軸を基本に、薄いグリッドで面積概算や拾い検証を支援します。写真は図面の番号と台帳の座標・方向・時刻・症状・補修想定を同じ語彙で結びます。


レイヤー構成と用途
レイヤー含める情報主な用途
症状別ひび(幅区分)、浮き、剥離、爆裂 等調査結果の可視化・再現性確保
部位別面ID、階、方位、ラインID足場計画・工程検討・区画管理
工法別樹脂注入、Uカット、張替、断面修復見積・施工計画の整合
グリッド(補助)1m×1mメッシュ面積概算・数量検証の補助

数量拾い・積算-“最後に出す”のではなく“最初から作る”

数量は集計で偶然に現れるものではありません。調査設計の段階で単位(ひび=m、張替・下地補修=m²、爆裂=箇所またはm²、シール=m、試験=回/点)を定義し、拾いやすい描き方を劣化図に反映します。散在する小面積は段取りロスが大きく、同じ数量でも生産性が変わります。見積時点で仮設・高所・バルコニー内/共用部などの歩掛前提を明示して共有すると、後の齟齬を抑えられます。検証は、図面ポリゴン面積と台帳件数の突合、クラック長の自動集計とラフ計測の差異確認、代表面の別担当追試を最低ラインに据えます。


ノウハウ継承-高齢化時代の“型づくり”

ベテランの判断を「社内の型」に変換することが世代交代の核心です。劣化分類・補修方針・緊急度の判定基準書を整備し、撮影基準(距離・角度・スケール・逆光対策)を文章と作例で示します。新人教育では同一面を二人で調査して一致率を測り、差が出た箇所をレビュー。誤判定・成功事例は匿名化してケース集に蓄積し、月次で更新します。ドローンや長尺ポール、ロープアクセスなどの省人化手段は体力の壁を下げ、参画の裾野を広げます。属人性を再現性へ-この変換が競争力になります。


品質確保と合意形成の運用

品質は「ミスが起こる前提」で組まれた運用に宿ります。一次→二次→補修方針→最終数量の各段階で合意を取り、説明は“厚み”より“筋の一貫性”を重視します。


  • 第三者レビュー:劣化図・台帳・数量を別担当がクロスチェック
  • 段階承認:各ステージで承認記録を残し、差分を明確化
  • 変更管理:工事中の追加発見は理由・数量差分・工程影響を記録

システム活用-写真・図面・数量・履歴を同じ座標で

デジタル化の目的は紙をなくすことではなく、証跡と数量の整合性を高めることです。図面(PDF/DWG)のレイヤーON/OFF、図面上の線長・面積からの自動集計、計測値の位置情報化-これらが同じ座標系の中に収まると、説明力が格段に上がります。 改修工事総合支援システム「TRSⅡ」は、外壁の劣化状態を拾い出す際に線分、線模様、ハッチング、面塗り、シンボル(部品)を使用して多彩な表現が可能です。線長・面積の自動集計、差分比較や履歴参照、過去案件の教育活用など、実務を補助する役割を担えます。


現場で効く“小さなコツ”

大掛かりな仕組みを支えるのは日々の所作です。数パーセントの手戻り削減が繁忙期の余力になります。


  • サーモ:晴天の斜光時間帯を狙い、健全部を同一フレームに入れて相対比較
  • 打診:横目地→縦目地の網掛けで音の変化を記録し、地図化する
  • クラック撮影:スケール併記と幅変化点の複数カットで再現性を担保

まとめ

症状の列挙で終わらせず、原因仮説 → 一次で広く → 二次で深く → 劣化図 → 数量 → 合意 → 施工を誰が担当しても同水準で再現できる体制を整える。これが改修の地力です。デジタルは証跡と数量のつながりを強くし、ベテランの判断をチームの資産に変えます。TRSⅡのような仕組みは、その流れをひとつの枠組みで管理するための現実的な手段です。誇張せず、現場に合う形で使い、定着させる-それが最短の改善になります。


本ページの内容は一般的な技術情報であり、実際の適用にあたっては現場条件・法令・指針・自治体運用等の確認が必要です。


改修工事の設計・拾い積算業務を効率化する「TRSⅡ」


TRSⅡ下地では、国や自治体の公共施設、ビル・マンション等の外壁劣化調査や大規模修繕工事の下地補修図の作成と積算が行えます。直接入力、トレース、エクセルデータ参照で劣化入力でき、エクセルで集計結果を出力できます。目視・打診調査の報告書から補修工事前の数量調書、補修工事完了報告図面作成まで外壁改修工事の図面作成と数量積算を支援します。 ご興味ございましたら是非お問い合わせください。

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