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TRSⅡコラム

大規模修繕工事における防水工事実施の流れ――現場で迷わないための実務ガイド

大規模修繕工事における防水工事実施の流れ――現場で迷わないための実務ガイド

入居中の建物で行う防水改修は、雨仕舞いの確実さと、生活・業務への影響を最小化する段取り力の両立が要になります。屋上・バルコニー・外廊下・庇・パラペット・サッシ周りのシーリングまで、部位ごとに劣化の出方も工法の相性も違います。本稿では、工事会社の実務目線で「工法選定の軸」「調査から引渡し」「数量の拾い出しの勘所」「要注意ディテール」「品質確認」「高齢化への対応」「TRSⅡの使い所」を整理します。

1. 防水改修の基本と対象範囲

大規模修繕での防水は、屋上・ルーフバルコニー・外廊下・共用階段・庇・パラペット天端・立上り・笠木ジョイント・サッシ周りのシーリングまでを一続きの「雨仕舞い系統」として捉えるのが堅実です。雨は上からだけでなく、開口部や取り合いからも入るため、平場だけ直しても漏水が止まらない事例は珍しくありません。既存図・過去補修履歴・居住者ヒアリングを揃え、漏水の経路を面(平場)と線(端末・目地)と点(ドレンやハッチ)の視点で見立てることが出発点になります。


2. 工法の種類と選定基準(相性・周辺条件・維持管理)

代表的な工法は、ウレタン塗膜(密着/通気緩衝)、シート防水(塩ビ・ゴム)、FRP、アスファルト(露出/押え)です。選定は「既存防水種別」「含水・膨れ」「勾配・滞水」「通行頻度」「臭気・騒音制限」「耐風圧・下地の可動」「維持管理のしやすさ」などを総合判断します。通気緩衝×脱気筒、改修用ドレン、端末金物の組み合わせを前提に、必要に応じ試験施工で膜厚・付着・納まりを実検証すると失敗が減ります。

主要防水工法の比較(改修での典型的な判断軸)
工法 適用しやすい場面 強み 主な留意点
ウレタン塗膜(密着/通気緩衝) 複雑形状や入隅・出隅が多い既存建物。既存層に含水・膨れが疑われる場合は通気緩衝。 納まり自由度が高く、段差・役物への追随性に優れる。通気緩衝は下地の動きに緩衝。 含水放散・脱気計画が前提。密着は下地健全性とクラック管理が鍵。膜厚管理が品質の要。
シート防水(塩ビ・ゴム) 平場が広く障害物が少ない屋上。機械的固定や部分接着で既存層と付き合う。 均一品質が確保しやすく、耐候性に優れる。改修時の施工速度を見込みやすい。 端末金物とディテールが生命線。強風地域・立上り納まりは設計段階で要検討。
FRP防水 バルコニーや庇など小面積・タイトな形状。短工期が求められる箇所。 硬化が速く、段取りが立てやすい。再塗りでの延命計画も組み込みやすい。 振動・動きの大きい部位は設計配慮が必要。臭気・騒音制約下では材料選定に注意。
アスファルト(露出/押え) 既存に押えコンあり、撤去の可否や荷重・搬出経路を含めて検討する屋上。 高耐久・実績多数。押えで紫外線影響を低減できる。 工程・臭気・仮設計画が鍵。居住環境への配慮と事前合意が不可欠。


3. 調査・診断〜工法決定までの流れ

まず既存図面・過去工事台帳・漏水履歴を集め、現地で目視・打診・散水試験・必要に応じ赤外線で膨れや含水を確認します。サンプル採取で既存層構成を確かめ、候補工法ごとに仮設・臭気・居住者動線の影響を洗い出します。次にディテール(ドレン・パラペット立上り・笠木・入隅出隅・ハッチ・サッシ周り)を収まり図で確認し、標準から外れる箇所を先に可視化しておきます。

最終的には「工法+ディテール+工程+住人配慮」をセットにした資料を整え、施主・監理と合意形成へ。後日の差異を減らすため、想定数量や試験施工の結果は写真と数値で残しておくと、提案の妥当性が伝わりやすくなります。


4. 拾い出し(数量算出)の考え方

防水数量の誤差は、定義の食い違いから生じることが多いです。平場は仕上げ見付か、端部折返しを含むか。立上りは何mm上までを面積算入するか。役物は点・長さ・面のどれで拾うか。現場で揉めやすい箇所ほど、定義を先に言語化して合意しておくと後が楽です。TRSⅡのように図面上に拾い根拠と数量を一体管理しておくと、増減精算や保証資料づくりの根拠が明瞭になります。

数量定義の例(見解相違を防ぐためのひな型)
項目 数量の定義 計測の注意
平場防水面積 仕上げ見付面積を基本。端末の折返しは「長さ×規定寸法」で別途。 設備基礎やハッチなど控除対象の閾値(例:0.5㎡未満切捨て)を事前合意。
立上り防水面積 見切り上○mmまでを面積算入し、天端は別計上。 出幅や入隅・出隅の増し補強分は「長さ」で追記し根拠写真を残す。
シーリング長さ 目地種別(伸縮・打継ぎ・開口部)ごとに区分。打替/増し打を明記。 バックアップ材・ボンドブレーカーの必要長さも同一系統で紐付け記録。
改修用ドレン 口径別・設置位置別の個数。 差し込み深さ・既存竪管状態・ストレーナ形状を写真で証跡化。
脱気筒 通気緩衝のブロック割に応じた個数。 設置間隔・高さ・防水層との取り合いを図面で凡例化。
端末押え金物 延長(m)と内外コーナー数。 下地種別と固定間隔を仕様に合わせて明記。


5. 拾い出しの要注意3点(箇条書き)

  • 面積の算定:平場と立上りの境界、役物の回り込み、控除の扱い
    平場は見付面積で拾いつつ、端末の折返しは「長さ×規定寸法」で別建てにするかを事前合意します。立上りは「見切り上○mmまで」を数量定義に明文化。避難ハッチの蓋やルーバー基礎など非防水部は控除対象とし、控除閾値(例:0.5㎡未満切捨て等)も統一。この三点を先に決めておくと、見積差異や増減精算の齟齬を大幅に抑えられます。

  • シーリングの長さ:系統分類と2面接着の担保
    伸縮目地、躯体打継ぎ、サッシ周り、手摺根元、笠木継手、目隠し屏風、避難ハッチ縁、ドレン周りの増し打ちなどを系統分類し、打替/増し打の区分・撤去範囲・必要副資材を数量と紐付けておきます。特に三面接着の回避は仕上がり耐久に直結するため、バックアップ材やボンドブレーカーの長さも同じ系統で拾い漏れなく記録します。

  • 付帯・役物:改修用ドレン、脱気筒、端末金物、避難ハッチ周り
    ドレンは口径・差し込み深さ・既存竪管の状態を現地で確認し、個数を部位別にカウント。脱気筒は通気緩衝のブロック割に応じて設置本数を算定します。端末押えは延長と内外コーナー数を分けて拾い、エアコン架台や配管受け下の納まり、避難ハッチ蓋の可動域・ノンスリップの取り合いまで「点・長さ・面」で拾い分けるのがコツです。


6. 施工フロー:屋上・バルコニー・開口部

屋上(通気緩衝×ウレタンの一例)

①仮設・落下防止養生 → ②既存防水の不陸補修・局所撤去 → ③ドレン周り下地調整・改修用ドレン挿入 → ④通気緩衝マット敷設・ジョイント処理 → ⑤脱気筒設置 → ⑥立上り先行でプライマー〜補強 → ⑦平場主剤1層・2層で規定膜厚 → ⑧トップコート → ⑨端末金物・シーリング → ⑩散水・目視検査。勾配不良は排水計画から是正し、滞水は写真と水平器で客観記録を残します。

バルコニー・外廊下(通行配慮)

居住者動線を時間帯で切り分け、区画ごとの施工・養生・開放を繰り返します。避難ハッチは蓋の可動域を確保し、周囲はノンスリップ骨材の粒度・散布量を試験施工で決定。エアコン室外機の仮置台計画、高齢者宅の出入り支援、臭気の少ない材料選定など、工法と運用の合わせ技が有効です。

開口部シーリング(サッシ・躯体打継ぎ・笠木)

既存撤去 → 三面接着防止のボンドブレーカー・バックアップ材 → プライマー → 所定寸法で打設 → 仕上がり検査。特にサッシ上枠は、庇・笠木・外壁仕上の取り合いで漏水経路が複層化しやすいため、水の上流側(笠木継手、手摺根元、外壁目地)を先に塞ぎ、下流の開口部を後追いで仕上げると効果が見えやすくなります。


7. 品質管理と検査の勘所

塗膜系は膜厚管理が生命線です。ウェット膜厚計・測定ポイント図でブロックごとに記録し、付着は引張試験や碁盤目など仕様に応じて確認します。散水試験は排水経路と時間を記録し、ドレン清掃とセットで実施。シーリングは断面寸法と仕上がり偏差、端部の仕舞い(切れ・気泡)を近接撮影。これらの工程写真・計測値・位置情報を図面などに紐付けておくと、是正指示と結果確認の往復が短縮されます。


8. 入居中工事の段取りと安全配慮

臭気・騒音・通行規制・視線配慮は工法選定と同じレベルで重要です。材料搬入の動線、ベビーカー・車椅子の回避ルート、夜間照明・仮設ケーブル養生、落下物防止の二重化――現場でヒヤリがあれば、写真と実名で原因と是正策を残し、翌日からの標準手順に組み込みます。掲示物やチラシは「どの部屋に・何時から・何をする・何に注意」を具体化。立入解放は硬化時間だけでなく、気温・湿度を見た安全側判断を徹底しましょう。


9. 人材の高齢化とノウハウ継承

ベテランの勘所はテキストだけでは継承しづらいのが実情です。そこで、①標準ディテール動画(下地・プライマー・補強・主剤・端末を一本化)、②不具合事例集(膨れ・しわ・端末浮き・滞水)を原因→現象→是正で紐付け、③現場単位の段取りレビュー(材料・人員・天候・近隣対応)を毎回10分で記録――この3点を回すと、若手が自走しやすくなります。


10. デジタル活用とTRSⅡの使い所

拾い出しと証跡の一体管理が成果に直結します。図面上で平場・立上り・役物・シーリングを系統ごとに色分けし、数量定義を凡例として保存。現地写真はピン打ちして、どの面積・どの長さに紐付くかを可視化します。改修用ドレンや脱気筒は型番・数量・位置をセットで管理し、発注・搬入・施工・検査写真まで同じカードで追跡できると、増減精算や保証資料作成が速くなります。

また、試験施工の結果(膜厚・歩行感・臭気・乾燥時間)をエビデンスとして残し、採用工法の決定根拠にすると、施主・監理との合意形成がスムーズに。工程表・掲示物・連絡票の定型化も、現場ごとに微修正するだけの運用にすると、現場管理者の負担は目に見えて下がります。


11. まとめ――「面・線・点」をそろえて漏水経路を断つ

防水改修は、平場(面)・端末/目地(線)・ドレンやハッチ(点)を同時に締めることで効果が出ます。工法は材料名で選ばず、既存下地の状態・動き・通行頻度・居住者配慮から逆算して決める。数量は定義を言語化して合意し、写真と図面とセットで残す。品質は膜厚・付着・散水の三点を押さえる。人の勘は動画と事例で形式化する。――この一連の流れを見える化しておけば、担当者が替わっても同水準の再現性で現場を回せます。

本稿は改修現場の実務に即した整理です。建物の条件・既存仕様・制約により最適解は異なります。具体の採否・数値は案件ごとに検討し、監理者・施主との合意を経て適用してください。


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TRSⅡ拾いでは、ビル・マンションの長期修繕計画、大規模修繕工事用の数量積算根拠作成の拾い積算が行えます。各種CADデータの読み込みの他、PDF図面の読み込み、紙図面(ラスタファイル)の読み込みに対応し、平面図・立面図から手拾い感覚で面積、長さ、個数の拾いができます。拾い出した数量は自動的に集計されCSVデータとして出力可能です。また、画面上に拾い出し根拠表として貼り付けも可能です。拾い出した軌跡が、図面上に残るため積算根拠を可視化し、見積もり精度の向上に貢献します。

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